皆さんはアスペルガー症候群という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「アスペ」などと呼ばれることもあり、ADHDや発達障害と混同しているという人も少なくありません。

今回は、そんなアスペルガー症候群についてわかりやすく解説します。合わせて、自閉スペクトラム障害や高機能自閉症との違い、アスペルガー症候群の人に多くみられる特徴などもわかりやすく紹介します。ぜひ参考にしてみてください。

アスペルガー症候群とは、発達障害の一種です。元々は、正式な診断名として使われていましたが、現在は自閉スペクトラム障害に分類され、診断名として扱われることはありません。

他者とのコミュニケーションに困難を持ち、共感性や想像力の欠如、こだわりの強さ、感覚過敏などさまざまな症状を合わせ持つ自閉スペクトラム障害の一種です。自閉スペクトラム障害のなかでも、知能や言語の発達に遅れが見られない場合、アスペルガー症候群に分類されます。

発達障害とは、脳の働き方の違いによってさまざまな特性がみられる障害です。これまで、発達障害の特性は、言葉に関するものや、行動に関するもの、思考力に関するものなど数多くのグループに分けられ、それぞれに診断名がついていました。そのひとつがアスペルガー症候群です。

発達障害は複数の特性が混在しているケースが非常に多いうえ、重複する特性のなかで診断の判断が非常に難しい障害です。そこで診断の際に細かく分類することをやめ、自閉傾向にある特性については、あいまいな境界をもちながらも連続している症状であるとして「自閉スペクトラム障害」という診断名が用いられるようになりました。

つまり、色々な特性を無理に個別の枠に当てはめるのを辞めたため「アスペルガー症候群」という診断名を使わなくなったということです。

ちなみに、「自閉症」という言葉もアスペルガー症候群と同じく現在は正式な診断名として使用されません。

アスペルガー症候群と特性の現れ方が似ている障害に、高機能自閉症があります。高機能自閉症とは、アスペルガー症候群と同じくコミュニケーションの困難やこだわりの強さなどの特性を持つ自閉スペクトラム障害の一種です。

アスペルガー症候群は、言語の遅れが見られないことに対し、高機能自閉症は幼少期に言葉の発達の遅れがみられるのが大きな違いです。ただし、幼少期の言語の発達の遅れは成長していくなかで、アスペルガー症候群の人と同等に発達するケースも多く報告されているため、近年は同意義の症名として認識されていることも珍しくありません。

アスペルガー症候群をはじめとする発達障害は、未だ原因が詳細に判明していません。先天的な遺伝要因や胎児期・幼児期の環境要因も懸念されていますが、医学的に原因だといえる根拠はありません。

親族にアスペルガー症候群の人が居ると、子どももアスペルガー症候群のリスクを持つという声があれば、両親・親族共に健常なのにも関わらず子どもにアスペルガー症候群が見られるというケースも実在しています。

アスペルガー症候群の人には、さまざまな共通する特徴が見られます。いずれかの特性を持っているケースや、複数の特性を併せ持つケースなど、特徴の現れ方もさまざまです。

アスペルガー症候群の人は、コミュニケーションに困難を持つことが多い傾向にあります。言葉の揶揄を理解できなかったり、他人の気持ちを想像したりすることが苦手なため、しばしばコミュニケーションにおいてトラブルを引き起こすことも珍しくありません。

また、健常な人は会話の流れやその場の雰囲気で、複数人のなかでの会話をスムーズに行う事ができます。しかし、アスペルガー症候群の人は、複数人で会話をしている際、誰が誰に話かけているのか理解できないというケースも多く聞かれます。

自閉スペクトラム障害は全般的に、特定のものごとへの強いこだわりを持つ特性がみられます。アスペルガー症候群も例外ではありません。

アスペルガー症候群の場合、顕著にみられるのは自分の興味のある事になると一方的に話を続けてしまう、という特徴です。

ひとたび自分の興味のある話題になると、相手のお世辞や社交辞令を理解しないまま延々と話続けてしまうことがあります。

また、自分自身の決めたルールを崩されることを極端に嫌ったり、色や柄、形などに規則性のあるものを好んだりする一面をもつ人も多いです。

自閉スペクトラム障害全般において、先の見通しが立たない事に対する強い不安感を持つ傾向があります。予定されていたものであれば問題なく対応できるものの、計画が狂ってしまったり不意の出来事が起きたりした際に、対応できずに思考停止やパニックに陥ることも多いです。

特に、幼い頃はパニックの症状が、顕著に見られます。

アスペルガー症候群をはじめとする自閉スペクトラム障害に多くみられる症状のひとつに、感覚過敏があります。感覚過敏とは、触覚、嗅覚、味覚、聴覚、視覚など、さまざまな感覚による刺激を過剰にうけとってしまうことです。

特に、服の質感などへのこだわりが強い人や、特定の食感のものに対して食べた時の舌ざわりが苦手で偏食になるという人も多いです。

発達障害を持つ人の多くに、発達性運動協調障害がみられます。そのため、アスペルガー症候群の人のなかにも、運動を苦手とする人が少なくありません。発達性運動協調障害とは、感覚統合の発達に遅れのみられる人にあらわれる障害で、脳が複数の感覚を同時に処理することを苦手としていることで起こります。

多くの運動は、バランスを保ちながら走る、相手を視界に捉えながらボールを投げるなど、複数の感覚を統合させた動作が組み込まれています。発達性運動協調障害は、単純に運動ができないという訳ではなく、障害によって運動に関連する動作を苦手としているのです。

運動が苦手な他にも、マスの中に納まるように字を書くのが苦手だったり、リコーダーが苦手だったりと、複数の感覚を同時に用いて行う細かい作業を苦手とする人も少なくありません。

近年、大人になって社会人として働く上で起こるさまざまな困り事から発達障害が判明する「大人の発達障害」が注目されています。

アスペルガー症候群は、ADHD（注意欠如・多動性障害）と共に大人の発達障害に多く見られる障害です。その理由は、幼少期の診断が難しい点にあります。

一般的に、自閉スペクトラム障害はコミュニケーションに困難を持つ点で幼少期に早期発見しやすいと考えられています。しかし、それらは発語の有無や知的発達の遅れをきっかけに気付くことが多いです。

知能や言語の発達遅延を伴わないアスペルガー症候群は、発見が非常に難しく幼少期は「こだわりの強い子」「マイペースな子」と捉えられがちです。そのため、障害に気付かないまま成長し、社会生活を送る上でコミュニケーションの困難やこだわりの強さ、不意に起こる出来事に対する対応ができないなどの理由でトラブルに見舞われてしまうケースが少なくありません。

アスペルガー症候群の人は、繊細で非常に傷付きやすい一面を持っている人が多い傾向にあります。社交辞令を言葉のままに受け取って期待を裏切られたと感じてしまったり、相手の感情を想像できない事から配慮のない発言をしてしまい口論になってしまったりすることもあるでしょう。
しかし、アスペルガー症候群の人には「どうして約束（社交辞令）を守ってくれないのか」「なぜ、ありのままを伝えただけなのに自分が怒られるのか」といった感情だけが残ります。

結果として、鬱やパニック障害、引きこもりなどの二次障害を引き起こす人も少なくないのです。アスペルガー症候群は知能の発達に問題がないため、「この言葉を言われた時には社交辞令である可能性が高い」「人はありのままを伝えられると傷つく事がある」など、理解を促せば適応できるケースも多くあります。二次障害を防ぐためには、アスペルガー症候群（自閉スペクトラム障害）をいち早く見つけ、社会に適応できるスキルを身に着ける必要があるのです。

療育とは、障害を持つ子どもに対して発達を支援する取り組みを言います。

発達障害においては、できる限り早い段階から療育を受けることで、発達において良い影響を与えられることが分かっています。アスペルガー症候群を含む自閉スペクトラム障害についても同様です。

なるべく小さな頃から他人と関わるためのソーシャルスキルを学ぶ事で、他人との円滑なコミュニケーション能力の発達を促すことができます。幼少期の発見が非常に難しいアスペルガー症候群ですが、保護者や保育者、教師などアスペルガー症候群の子どもに関わる人は、何らかのサインを受け取っている可能性があります。小さな違和感を見逃さず、早期に療育支援と繋がる事で、困難を軽減できる効果は大いに期待できます。

今回はアスペルガー症候群について解説してきました。現在は正式な診断名称として用いられることなく、総じて「自閉スペクトラム障害」という診断名で扱われます。しかし、まだまだ認知的にはアスペルガー症候群の方が広く知られているかもしれません。

だからこそ、アスペルガー症候群について正しい知識が誤解なく広まる事が大切です。アスペルガー症候群には、知的・言語的発達の遅れがありません。そのため、一般社会のなかで問題なく生活している方も多くいます。

自分自身や身近な家族がアスペルガー症候群かもしれない、と感じた時には、発達障害者支援センター等の専門的な知識のある機関からの福祉支援を受けることが大切です。まずは、気軽に相談をする所から始めてみてくださいね。