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運動療育とは?概要や効果・おすすめメニュー・プログラムを考えるコツを紹介

運動療育とは

運動療育とは、運動を通してで発達障害などの療育を行うことです。数ある療育プログラムの中のひとつですが、さまざまな効果が期待され、運動療育を取り入れる発達障害支援施設も増えています。

中には、運動療育を主軸として療育を行う施設や、運動療育について学ぶことができる認定資格などもあります。療育に携わるスタッフのスキルアップとして、運動療育について学びたいという声も少なくありません。

発達障害に運動療育がおすすめな理由

発達障害を持つ子どもや、診断を受けるには至らない発達障害グレーゾーンに含まれる子ども達の中には、発達性協調運動障害を併せ持っているケースが多いです。

発達性協調運動障害とは、発達の早期から日常生活が困難なレベルの手先の不器用さや運動の苦手さが見られる障害です。子どもの5~6%に見られ、ハサミを使うことや紐を結ぶことなどを苦手とします。また、よく転んだり縄跳びなどの運動が極端にできないケースも少なくありません。

発達性協調運動障害を持っている子どもは運動に苦手意識を持っていたり、運動ができないことで自己否定に陥っていることが多くあります。そんな子ども達にとって運動療育は協調運動の基礎を培い自己肯定感の向上などの効果が期待できる療育です。

この他にも運動療育にはさまざまな効果が期待でき、子ども自身も楽しんで取り組むことができるため療育のプログラムとして推奨されています。

運動療育を行う4つの目的

運動療育では以下の目的を持ってプログラムを行います。

全ての目的を併せ持たなければいけない訳ではありませんが、子どもが持つ特性や療育の進み具合などによって、その時最も必要とされている目的を達成できるプログラムの考案が求められます。

1.協調運動の発達を促すため

発達障害児の中には、感覚の協調を苦手とする子が多くいます。日常生活の中には感覚の協調を必要とする事が多く、目から見た情報と体の動きを協調させたり、左右の手の動きを協調させたりすることも必要です。

健常児が無意識で出来ている、感覚と行動の協調は一部の発達障害児には大変難しい行動であることが少なくありません。

運動療育を通して、感覚や行動の協調を学ぶことも目的のひとつです。感覚や行動の協調は日常生活や運動以外に、勉強などにも必要です。
鉛筆を握って字を書く際、視覚で字を書く位置やバランスを確認しつつ指先で鉛筆をコントロールし、書きたい文字を脳で考えて字を書きます。運動療養によって感覚や行動の協調がスムーズに行えるようになると、学習意欲が向上することもあるでしょう。

2.自分の体のコントロール方法を学ぶため

運動療養によって、自分自身の体をコントロールする能力を身に付ける目的もあります。発達障害を持つ子どもの中には、力のコントロールを苦手とする子が少なくありません。

自分では軽く他人に触れたつもりだったのに力が入り過ぎてしまい「叩いた」と認識されてしまったり、そっとプリントを持ったつもりがクシャクシャに握りつぶしてしまったりします。本人のイメージと力加減がしっかりとリンクせず、「乱暴」「粗雑」などのイメージを持たれてしまうケースも多くみられます。

運動療法を通じて、自分自身の体のコントロール方法を学び、自分自身のイメージとパワーコントロールのズレを減らすことも期待されます。

3.自己肯定感を高めるため

発達障害児の多くは健常児と共に過ごしています。一般の保育園や幼稚園に通いながら療育を行う子どもや、小学校では通常級と特別支援級を併用するケースも多いからです。

その中で、コミュニケーションが上手くとれないことや、健常児と同じ事をできないという失敗経験を積みやすいのが大きな問題となっています。
失敗を繰り返すことで自己嫌悪や自己否定を起こしてしまったり、他人と上手く関われないことで消極的になってしまうケースもあるでしょう。

運動療育では「できた」という自己肯定感の向上を目的とする一面もあります。運動には多種多様なものがあり、勝敗にこだわるものばかりではありません。机に座って行う学習に比べると、プログラムの内容を慎重に考えれば「できない」を限りなく減らすことも可能です。

子ども自身が持つ療育へのモチベーションを高め、自信をつけさせる際にも運動療育は適していると言えるでしょう。

4.ストレスを発散するため

発達障害児の中には多動性や衝動性などの特性を持ち、じっとしている事を苦手とする子ども達も少なくありません。そんな子ども達にとって着席して机に向かって行う療育は、多かれ少なかれストレスになることもあるでしょう。

子ども達のストレスを発散させる意味でも運動療育が取り入れられています。
運動療育で充分に体を動かしてからパワーを発散させてから学習療育を行ったり、頑張って着席して療育に取り組んだご褒美として楽しく体を動かす運動療育を行うなど、子どもにとってできる限りストレスを減らしながら療育を行うためにも大切なプログラムです。

運動療育の効果

一般の保育園や幼稚園、学校などでも、外遊びや体操、体育などの授業はつきものです。子どもの発達にとって運動は欠かせないものと言えます。療育でも、子どもの発達にとって運動が必要だという点は同じです。

続いては運動療育を行うことで期待できる効果について解説していきます。

感覚統合のトレーニングになる

発達障害児の中には、感覚統合を苦手とする子が多くいます。

感覚統合とは複数の感覚を整理することで、私達は日常生活の中で無意識に感覚統合を行っています。全身で感じるさまざまな刺激の中から、必要な刺激や情報を連動させているのです。

話を聞いている時に、どこかで何かの音がしたら、音が聞こえた瞬間は意識するものの「話を聞かなければ」とまた意識を相手む向け直します。この時、脳では相手の声に意識を向け、他の情報や刺激に意識を向けないよう感覚をコントロールしているのです。

感覚統合が苦手だと、相手の話を聞かなければいけないと分かっているのに、他の刺激が気になったり、興味を引く刺激に注意を向けてしまったりします。

運動療育では、全身にさまざまな刺激を受け情報を整理しながらプログラムを行います。これにいより、必要な情報を優先したり、反対に不要な情報を意識的に排除する感覚統合のトレーニングになります。

脳細胞の成長を促す

運動をして体の動きと共に脳を働かせると脳由来神経栄養因子(BDNF)という物質が分泌されます。BDNFは、脳の発達に欠かせない分泌で、神経細胞の形成や脳の重要な血管を作る物質です。

このように、運動は体の発達だけでなく脳のはたっつを促す効果もあります。

療育に用いられる基本的な2つの運動

療育プログラムを考える中で、運動療育はこれまでも重視されてきました。その代表的な運動が「粗大運動」と「微細運動」です。

続いては、運動療育を考える上で欠かせない粗大運動と微細運動について詳しくみていきましょう。

粗大運動

粗大運動とは、姿勢を保ったり移動したりする運動のことです。走る、歩く、飛び跳ねる、座る、立つ、体を捻るなども全て粗大運動のひとつと言えるでしょう。

療育では全身を動かすような動きの大きい運動はほとんどが粗大運動に当てはまります。

微細運動

微細運動とは手、指、脚などを使って行う細かい動きのことを言います。小さなものを掴む動きや積み木なども微細運動を用いた行動です。さらに、字や絵を書くことも微細運動のひとつと言えます。

おすすめの運動療育メニュー

運動療育についてさまざまなことが分かってきたところで「どのような運動を取り入れれば療育に効果的なの?」と思う人もいるでしょう。

運動療育の例として、いくつかの運動を紹介します。

有酸素運動

有酸素運動とはたっぷりと酸素を取り込みながら長時間行うことができる運動です。酸素を取り込むことで、全身を活性化させてくれるメリットもあります。

有酸素運動を摂り入れるのであれば、散歩などがおすすめです。
ゆったりと歩くことでたくさんの酸素を取り込み、全身の活性化に繋がります。
おすすめの有酸素運動メニュー

散歩(ウォーキング)、エアロビクス、体操、ヨガなど

体のコントロール能力を高める運動

体のコントロール能力を高める運動では、指定した体の一部を集中して使うことを意識しましょう。

線の上を歩いたり、指定された色に触れる遊びなども手軽に取り入れることができるのでおすすめです。
おすすめの体のコントロール能力を高める運動

綱渡りゲーム
 2本のロープを片足が収まる幅で設置し、ロープとロープの間をはみ出さないように歩く
色探し
 スタッフが指定した色を探し、手や足など決められた部位でタッチする

バランス感覚を養う運動

バランス感覚を養う運動では、体幹を鍛えることを意識したプログラム構成を意識してみてください。体幹トレーニングというとハードな筋力トレーニングのイメージが強いですが、それだけではりません。

片足立ちなども体幹を鍛えつつバランス感覚を養うことができます。しかし、発達障害児の中には片足立ちが苦手だという子も少なくありません。
そこでおすすめなのがバランスボールを使った運動療育です。

地面に足をついてバランスボールに座るだけでも、バランス感覚や体幹が鍛えらえます。体の大きさに合ったバランスボールを使用すればより効果的です。
おすすめのバランス感覚を養う運動

バランスボール
バランスボールに座って落ちないように跳ねる

ボール運び
コップの上にボールを置いて落とさないように進む。上手にできるようならスプーンにピンポン玉などをのせて行う

協調運動

複数の感覚や部位を連動させる協調運動も、療育で必要なプログラムと言えます。特に、発達障害児の中には協調運動を苦手とする子が多いため、楽しんで取り組めるよう工夫しましょう。

簡単に取り入れられるのは、音楽に合わせて手を叩く遊びです。これができるようになったら音楽に合わせてジャンプなど、段階的に動作を複雑にしたり、連動させる動作を増やします。

協調運動は私達が無意識に行っていることなので「どうしてできないのか」を理解するのは難しいでしょう。そのため、協調運動を苦手とする子どもにとって負担とならない配慮も必要です。設定したプログラムが難しいようであれば、最初は人の手拍子に合わせて手を叩くなど、レベルを下げて成功体験を得られるよう工夫してみてください。
おすすめの協調運動

リズムあそび
リズムに合わせて体を動かす

マット登り
重ねたマットの上を登る。適切なタイミングで四肢を動かし、掴む力、登る力などを連動させる必要がある

効果的な運動療育プログラムを考えるコツ

効果的に運動療育を行うためには、プログラムを考え療育として行う上でいくつか意識しておくべきポイントがあります。

最後に、運動療育を効果的に行うためのプログラム考案のコツを紹介します。

個人の特性に適したプログラムを考える

発達障害には自閉症やアスペルガー症候群、ADHD、学習障害などさまざまなものがあります。
それぞれに多く見られる特性がありますが、子ども達を「発達障害」という枠組みで分類してしまわないよう注意してください。

同じ発達障害でも特性の現れ方はそれぞれで、さらに療育の進み具合や性格、趣向などによっても発達状態は異なります。

特に集団療育の際には同じ診断名の子どもを同じプログラムに当てはめるケースが多いでしょう。しかし、それぞれに特性の現れ方や発達状態が異なるのであれば、個人に合わせたアプローチが必要です。

その点、運動療育は同じ動作でもアプローチ方法を変えれば個人対応が可能です。ボールを使ったプログラムを行う際に、得意な子にはキャッチボールを指示し、苦手な子にはボールを転がして受けるよう指示するなど工夫する方法はいくらでもあります。

同じプログラムの中でも個人の特性に適した療育ができるよう、事前に子どもたちそれぞれのアプローチ方法を検討しておきましょう。

感覚統合理論を理解してプログラムを考案する

運動療育のプログラムを考えるにあたり、感覚統合に関する理解は欠かせないものです。それぞれの感覚と行動の関係性について理解し、子どもが特性によって苦手とする行動を補うためのプログラムを考える必要があります。

感覚統合で主に使われる聴覚、触覚、視覚、前庭覚、固有受容覚についても正しく理解して運動療育プログラムを考えてみてください。

聴覚

聴覚は言葉を使ったコミュニケーション以外にも、状況判断などをするために重要な感覚です。
音がした方を向くなどの行動も、聴覚と運動の感覚統合が求められます。

また、周囲で聞こえるさまざまな音の中から必要な音を効率的に聞き取りたい時も、視線や体を相手に向けることで聞き取りやすくします。これも聴覚と視覚や運動が統合しているから出来ることです。

触覚

触覚には探索や危機回避などの役割もあります。探索や危機回避は、どちらか一方が優位ではさまざまな問題が発生してしまいます。

例えば、探索は知的好奇心を満たしたり物を確認することに役立ちます。生まれてすぐの赤ちゃんは視力が弱く殆ど周りが見えませんが、哺乳瓶で口元をつつくとそちらに口を開けて哺乳瓶を咥えます。これは触覚と口を開くという運動が統合され連携できているからです。

危機回避は触れてみて熱い・冷たい・痛いなど、身体に何らかの強い刺激を感じる時にパッと手を引く行動です。
これも触覚と手を引くという行動が瞬時に連携しています。

探索を好み危機回避を苦手とする子は、何でも不用意に触れてしまい痛みに鈍感で無意識に怪我を負ってしまうかもしれません。反対に探索が苦手で危機回避を得意とする子は、触れられることに敏感でちょっとの刺激も強く受けてしまい、砂遊びや粘土遊びなども触感で嫌がってしまうことがあるでしょう。

触覚は探索と危機管理がバランスよく、尚且つ運動との連携がとれる事が特に重要です。

視覚

視覚はものを見るために使われる感覚ですが、他の感覚と統合することで機能を最大限に発揮します。

目で見たものを掴んだり、見たい物の方向に体を向けることなど、運動との連携は日頃から行っていることです。

また、目で見たものを手で触れて触感により確認し、概念として理解するケースもあります。
見た目にはフワフワだけど、触って見るとゴワゴワしているものや、柔らかそうに見えるけれども触れると硬いなど、視覚と触覚を合わせて物事の概念を確認しています。

前庭覚

前庭覚はバランス感覚を司る間隔です。耳の中にある内耳の前庭部分で、バランスを保つためには体や頭をどのように保てばよいのか判断します。

前庭覚と運動が連携することで、体は適切なバランスを保って行動できるのです。転びやすい子の中には前庭覚と運動の連携が上手くとれていないケースが多いでしょう。

固有受容覚

固有受容覚とは、体内の運動が情報を感じるために重要な感覚です。力加減や、視覚に応じた行動量を図る役割を持っています。さまざまな感覚のコントロールを行うのに重要な感覚といってもよいでしょう。

固有受容覚と各感覚や行動の連携が上手くいかないと、間違えた文字に消しゴムをかける際に力を入れ過ぎて紙を破ってしまったり、ブランコやスキップなど複数の感覚を使う遊びや行動を苦手としたりします。

子どもに寄り添ったアセスメントを行う

アセスメントとは、対象に対する客観的な評価を意味します。発達障害では、主に療育スタッフによるアセスメントを重視しがちですが、それだけでは足りません。

子どもの主訴や保護者の感じたことなど、アセスメント対象は多ければ多いほどよいでしょう。さまざまな視点からのアセスメントを統合し、運動療育における効果を測定します。

対象の子どもにとって良い影響を与えているプログラムは積極的に行い、効果が感じられなかったり療育へのモチベーションを低下させてしまっているプログラムは改善する方がよいでしょう。

個別支援計画書については以下のコラムでも詳しく紹介しています。
個別支援計画書の作成について知りたい人はぜひ参考にしてみてください。


【療育における個別支援計画書の書き方を徹底解説!放課後等デイサービス向けの記入例も紹介】のページはこちらをクリック

運動療育で療育を楽しく効果的にしよう

運動療育は、子ども達の発達や自己肯定感を高めるためにもおすすめの療育プログラムです。しかし、闇雲に運動をすればよいというものではなく、理論や発達障害への理解の元行われるべきものであるといえるでしょう。

近年、さまざまな団体が独自の運動療育プログラムや運動療育理論を提唱しています。さまざまなケースを学び、特性に適したプログラムを考えてみてはいかがでしょうか。

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